ノルウェーは、国連が毎年発表する国の豊かさを測る指標「HDI=人間開発指数」で、「世界でもっとも豊かな国」に6年連続で1位にランクされました。その背景には、1960年代の終わりにノルウェー沖で発見された海底油田と天然ガス田があり、この海洋資源が国の経済に大きな影響を与えました。それは、人々の暮らしを豊かにする国づくりに踏み出す原動力となると同時に、一方で足元から始まって、広い視点で地球環境へ関心を持つきっかけにもなったのです。
人口のおよそ8割が沿岸地域で生活しているため、人々は海洋資源の開発が及ぼす影響だけでなく、周辺の国々から風や海流で押し寄せてくる環境汚染などにも問題意識を持つようになりました。地球の北に位置する地域は、北半球の国々から流れ着く有害化学物質の“集積地”になる恐れが十分にあったからです。こうして、ノルウェーは自国の豊かな自然を守ることを通して、地球規模での環境保護運動を推進する役割も担うことになったのです。
世界の環境保護論者たちに大きな影響を与えているのが、ノルウェー出身の哲学者アーネ・ネスによる「ディープ・エコロジー」という世界環境思想です。「ディープ・エコロジーの原郷-ノルウェーの環境思想」(尾崎和彦著、東海大学出版会)によれば、ネスの思想は、「社会は自然破壊という環境危機を回避・克服するように変革されなければならない。そこには、“自然”から“社会-自然”への理念が厳然と存在していなければならないのである」と述べられています。
ノルウェーでも、オイルショック以来、石油や電気などのエネルギーに頼るだけでなく、薪などの再生可能な生物燃料や、波力、風力、太陽、ヒートポンプの活用も見直されていると言います。ネスが語る哲学の背景には、エネルギー問題を通し、厳しい気候の中で自然を畏敬し愛するノルウェーの人の気質があるのかもしれません。そして、紛れもなく、ヨツール製品にもその「ディープ・エコロジー」が活かされているのです。